世界地図でたどるビールの起源

ビールの起源
目次

はじめに

ビールの“最初の一杯”は、どこか一ヶ所からポンと生まれたわけじゃない。メソポタミア/エジプト/東アジアみたいに、穀物・水・器が揃った場所ごとに、人はそれぞれのやり方で発酵に出会っている。ここでは**材料(何を使ったか)/道具(どう仕込んだか)/飲み方(共同・儀礼・日常)**の3要素で、その起源をたどる。[1]。

メソポタミア:大壺とストロー、“みんなで一杯”(概ね BCE 4千年紀〜)

ポイント

  • 道具:共有の大壺長いストロー。固形分を濾(こ)しながら飲む設計[2][3
  • 材料:麦ベース。発酵後も濁り穀物感が残る“飲む粥”っぽい像
  • 飲み方共同飲酒。宴でひとつの壺を分け合う文化

楔形文字の世界には、長いストローで大壺から一緒に飲む宴の情景がはっきり残る。ウル(Ur)ゆかりの金+ラピスのビーズ付きストローや、円筒印章に彫られた「壺から管で飲む」場面は、ストロー=濾過という機能とシェアして飲む社会性を一度に示してくれる[2][3]。
化学的な裏づけもある。イランのゴディン・テペでは、壺の溝からビアストーン4]が検出され、BCE 4千年紀に“ビールであった可能性”を示す古典的マイルストーンとしてよく引かれる[4]。
ビアストーン:器内に沈着するカルシウム・オキサレート(シュウ酸カルシウム)。長期的なビール接触の痕跡として手がかりになる。

エジプト:パンとビールが“往復”する台所(BCE 3千年紀〜)

ポイント

  • 道具:製パンと共通の器具(臼・捏ね容器・加熱器具 など)
  • 材料/工程芽出し麦を砕き、水と合わせ、半焼成のケーキ状→崩して仕込むという循環
  • 飲み方日常の栄養であり、儀礼の供物でもある二面性

エジプトはパン作り⇄ビール作りが地続き。壁画や模型に工程が繰り返し出てくるし、約5,000年前のビールを再現する取り組みも進み、穀物の甘みやさしい酸味みたいな味の像が立ち上がってきた[6]。

東アジア(中国・陝西/ミジャヤ):雑穀ブレンドと“麹の知恵”(BCE 3400–2900ごろ)

ポイント

  • 道具ろうと(じょうご)やかまどなど、醸造に関わる器具がセットで出土
  • 材料アワ(broomcorn millet)/オオムギ/ハトムギ(Job’s tears)/塊根ブレンド
  • 証拠でんぷん粒・植物珪酸体・化学残留多角分析現地醸造直接示す

ミジャヤでは、器具一式に加えて容器内部の残渣を複数指標で突き合わせ、その場でビール様飲料を仕込んでいたことが直接示された。雑穀の自由度と、東アジアの麹*による糖化との相性が早期から見えるのが面白い[5]。
:穀物に麹菌を生やしてデンプンを糖化させる仕組み。東アジアの酒造技術の土台。


共通する“つくりの線”

  • 材料:麦が軸。ただし地域によって雑穀や塊根を混ぜる柔軟さ
  • 道具壺・濾し器・ストロー(メソポタミア)、製パン器具(エジプト)、ろうと・かまど(ミジャヤ)
  • 飲み方共同(大壺を分ける)、儀礼(供物)、日常(栄養)

流れ自体はどこも同じ。穀物の糖 → 微生物が食べる → 泡と香り+少しのアルコール。最初は“偶然の発酵”でも、やがて**酵母*を“飼いならす”**工夫が育っていく[1]。
酵母糖を食べてアルコールとCO₂を出す微生物。野生との出会い→人の手での選抜・継承で“家化”が進む。

どう受け取って飲む?

  • メソポタミアを思い浮かべると、濁り穀物感、それをみんなで分け合う楽しさ。
  • エジプトパンと往復する仕込みから、穀物の甘み穏やかな酸味が立ち上がる。
  • ミジャヤ雑穀ブレンドの自由度=現代の副原料多様な穀物使いに直結。

起源を一点に固定せずに眺めると、今日のクラフトの一杯が歴史の延長線にすっと重なって見えてくる。

さいごに

いろんな情報があって、どれが“正解”かは断言しにくいし、読み方に異論があるかもしれない。今回触れた範囲では自分はこう受け取った、という整理だ。もちろん正解を探求する視点は大事。でも、昔に思いをはせながら、長い時間を超えて今もビールを飲めていること自体、けっこうすごい。その実感も、大切にしたい。

脚注(番号は本文と対応/ソースの言語に合わせて表記)

[1] Encyclopaedia Britannica. “Beer.” Britannica. Updated September 9, 2025.
[2] British Museum. “Drinking-straw (Object no. 1928,1010.95), Early Dynastic III, Ur.” .
[3] British Museum. “Cylinder seal (W.1911,0408.8): banquet scenes; figures drinking by pipe/straw from a large vessel.”
[4] Michel, R. H., McGovern, P. E., & Badler, V. R. (1992). “Chemical evidence for ancient beer.” Nature, 360, 24. https://doi.org/10.1038/360024b0
[5] Wang, J., Li, X., Gao, H., et al. (2016). “Revealing a 5000-y-old beer recipe in China.” Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 113(23), 6444–6449.
[6] British Museum Blog (Tasha Marks). “A sip of history: ancient Egyptian beer.” May 25, 2018.味違う、ゆったりとした時間を楽しみたいときに、ぜひ手に取ってみてください。

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この記事を書いた人

はじめまして、Sです。
ビールは好きだけど、知識はまだまだ。クラフトビールに出会って、その奥深さと自由さに強く心を惹かれました。わからないことも多いですが、みんなと一緒に楽しみながら学んでいけたらと思っています。
特に好きなのはヘイジーなIPA。アメリカ産のビールに惹かれることが多い一方で、日本のものづくりから生まれるクラフトビールの可能性にも大きな期待を寄せています。
もっと多くのファンが増え、日本のビール文化が盛り上がり、やがて世界に誇れるビールが生まれていく。その流れの中に、少しでも関わっていけたらうれしいです!

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