クラフトビールは、ブルワーがさまざまな要素を組み合わせながら計算し作り上げるとても奥深い飲み物です。スタイルの選定、原料選び、酵母の選定、発酵方法、温度管理、設備の違いなど、少し条件が変わるだけでもビールの味わいは大きく変わってしまいます。
クラフトビールの味を決める基本的な原料は、大きく分けて次の4つです。
- 麦芽(Malt)
- ホップ(Hops)
- 水(Water)
- 酵母(Yeast)
もちろん、同じ設備で同じレシピで作ったとしても完全に同じ味になるとは限りません。発酵というプロセスは生きた酵母が関わるため、わずかな環境の違いでも仕上がりが変わることがあります。さらに設備や発酵環境が変われば、また違った個性のビールが生まれることもあります。
つまりビールの味わいは、本来とても多くの要素が重なり合って決まるものです。ただ、この記事ではそうした設備や環境などの不確定要素はいったん脇に置いて、まずはビールの味の基本となる原料に注目して話を進めていきます。
クラフトビールの話題ではホップや麦芽に注目が集まりがちですが、実はビールの個性を大きく左右しているのが酵母です。酵母は糖をアルコールと炭酸に変えるだけでなく、発酵の過程でさまざまな香り成分を生み出します。その結果、同じ原料を使っていても酵母が違うだけでビールの印象は大きく変わります。
例えば
- フルーティーなビール
- クリーンでドライなビール
- ファンキーで複雑な味のビール
こうした違いは、原料や製法だけでなく酵母の種類による部分が非常に大きいのです。
クラフトビールの世界では、酵母の選択や発酵の方法によって新しい味わいが次々と生まれています。この記事では、クラフトビールでよく使われる酵母の種類や特徴をわかりやすく紹介します。
ビール酵母の基本
エール酵母とラガー酵母
ビール酵母は大きく分けると2種類あります。

| 酵母 | 学名 | 発酵温度 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| エール酵母 | Saccharomyces cerevisiae | 15〜22℃ | フルーティー |
| ラガー酵母 | Saccharomyces pastorianus | 8〜13℃ | クリーン |
この違いは主に
- 発酵温度
- 香りの生成
- 発酵方法
によって生まれます。
エール酵母(Ale Yeast)
エール酵母はビール醸造で最も広く使われている酵母で、学名は Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)。比較的高い温度(おおよそ15〜22℃)で活発に発酵するのが特徴です。この酵母は発酵の過程でエステルと呼ばれる香り成分を生成しやすく、柑橘・リンゴ・洋梨・トロピカルフルーツなどのフルーティーなアロマを生み出します。
発酵中はタンクの上部に酵母が浮き上がる傾向があるため、伝統的には「上面発酵酵母」と呼ばれます。エール酵母は種類も非常に多く、同じ原料でも酵母が変わるだけでビールの印象が大きく変わるほど個性を持っています。
例えば、アメリカンエール酵母はクリーンでホップの香りを引き立てやすく、イングリッシュエール酵母はフルーティーでモルトの風味を豊かに表現します。
主なスタイル
- Pale Ale
- IPA
- Hazy IPA
- Stout
- Saison
- Belgian Ale
クラフトビールの多くはこのエール酵母によって個性が作られています。特徴としてはラガー酵母よりも時間がかからないので、コンスタントにビールをリリース出来るという点。ブルワリーから毎週新作がリリースされるのはこの発酵のスピードのおかげでもありますね!
ラガー酵母(Lager Yeast)
さて、次のラガー酵母は Saccharomyces pastorianus(サッカロマイセス・パストリアヌス)という酵母で、低温(およそ8〜13℃)でゆっくり発酵する特徴を持っています。エール酵母と比べてエステルなどの香り成分をあまり生成しないため、発酵由来の香りは控えめで、全体としてクリーンでクリスプな味わいになりやすいのが特徴です。良く飲まれるキリン・アサヒ・サッポロなんかはこのラガー酵母を使っています。
発酵後は酵母がタンクの底に沈むため、伝統的には「下面発酵酵母」と呼ばれます。ラガー酵母を使ったビールは発酵後に**ラガリング(低温熟成)**と呼ばれる工程を行うことが多く、この期間に余分な成分が沈殿し、透明感のある仕上がりになります。
酵母のキャラクターが強く出ないため、麦芽やホップの味わいをクリアに表現できるのも特徴です。
例えばドイツ系ラガー酵母はクリーンでドライな仕上がりになりやすく、チェコ系ラガー酵母はややモルトの甘みが残る傾向があります。
主なスタイル
- Pilsner
- Helles
- Märzen
- Bock
- Dortmunder
それぞれのブルワリーで麦やホップ、独自のレシピでボディーの軽くしたり・重くしたり、ホップを変えたりしながら個性を出す。正直、日本は5大ビールが非常に美味しいラガーがあるので、これを読んだ後にゆっくり嗜んでみてもいいかもしれませんね。
さて、ここまで紹介してきたエール酵母とラガー酵母は、現在のビール醸造で最も一般的に使われている酵母です。しかしクラフトビールの世界では、それ以外にも個性的な発酵を生み出す酵母が存在します。
例えば、自然環境に存在する微生物を利用する自然酵母(Wild Yeast)や、北欧の伝統的な農家醸造から生まれたKveik(クヴェイク)酵母などです。最近では日本酒酵母やワイン酵母でビールを作るブルワリーも結構ありますね。話をもどしますが、これらの酵母は一般的なビール酵母とは異なる発酵特性を持ち、より複雑でユニークな香りや味わいを生み出すことができます。その中でも自然酵母と最近少し流行っているKveik酵母の紹介を今回はしてみますね。
自然酵母(Wild Yeast)
クラフトビールでは、醸造用に培養された酵母ではなく、空気中や果実の表面など自然界に存在する酵母や微生物を利用した発酵が行われることがあります。こうした酵母は一般的に自然酵母(Wild Yeast)と呼ばれます。
代表的なものに Brettanomyces(ブレタノマイセス) があり、通常のビール酵母とは異なる発酵特性を持っています。この酵母は発酵がゆっくり進むことが多く、時間の経過とともに味わいが変化する複雑なビールを生み出します。
香りにはファンキーさ、土っぽさ、皮革のようなニュアンスなど独特の個性が現れることもあります。
自然酵母のビールは、空気中の微生物や樽に住み着く酵母などが関与するため、醸造環境によって味わいが変化することがあります。そのため同じレシピでも毎回少しずつ味が変わるという魅力があります。
日本では伊勢角屋麦酒の醸造家として知られる
鈴木成宗 が、野生酵母の研究や分離に積極的に取り組んできたことでも知られています。

KADOLABOとは?
KADOLABO(カドーラボ)は、伊勢角屋麦酒が展開する実験的なビールブランドです。自然酵母や独自に分離した酵母、樽熟成、長期発酵など、通常ラインとは異なる自由な醸造を行うためのシリーズとして生まれました。
KADOLABOのビールは、酵母のキャラクターや発酵による味の変化を楽しむことをテーマにしているのが特徴です。自然酵母を使ったビールや実験的なレシピなど、クラフトビールの「発酵の面白さ」をより強く体験できるラインとして、多くのビールファンから注目されています。
▶ KADOLABOのビールを見る
@kadolabo_000_official
Kveik酵母
近年クラフトビール界で注目されているのが Kveik(クヴェイク)酵母です。これはノルウェーの農家で古くから使われてきた伝統的な酵母で、近年になって世界のブルワリーで研究が進み、クラフトビールの新しい酵母として注目されています。
Kveik酵母の最大の特徴は非常に高い発酵温度です。一般的なエール酵母が15〜22℃程度で発酵するのに対し、Kveikは30〜40℃という高温で安定して発酵します。
さらに発酵スピードが非常に速く、数日で発酵が完了することも珍しくありません。
主なスタイル
- IPA
- Pale Ale
- Farmhouse Ale
酵母を知るとビールはもっと面白い
クラフトビールの世界ではホップが注目されることが多いですが、実際には酵母も非常に重要な要素です。同じ原料でも酵母が違うだけで、ビールの香りや味わいは大きく変わります。
こうして見てみると、ビールづくりは単に原料を混ぜて発酵させるだけのものではありません。ブルワーは麦芽、ホップ、水、酵母だけでなく、発酵温度や発酵時間、さらには醸造設備など、さまざまな要素を選択しながら一つのビールを作り上げています。そうした無数の選択の積み重ねによって、それぞれのブルワリーならではの個性が生まれます。そして時には、発酵の中で思いがけない変化が起こることもあります。そうしたハプニングや偶然さえも、クラフトビールの面白さの一部なのかもしれません。
