連載もいよいよ最終回です。
#01 では「Double や Triple って結局どれくらい強いの?」という 強さ の話を、#02 ではAmerican IPA(棚では West Coast IPA)の「ドライさとキレ」と、Hazy IPA の「甘みととろみ」という、味の向きが変わる スタイル の話を整理してきました。
最後のテーマは、棚や通販で実際に一本を選ぶときの手がかり——ラベルです。
クラフトビールの缶には、「DDH」「Oats」「Cryo」みたいな見慣れない英語アルファベットが並んでいることがあります。最初の頃は、正直まったく読めませんでした。でも、ここに書かれている言葉が少し分かるようになると、飲む前に「これはこういう味かな」とアタリをつけられるようになります。
今回は、その代表格である DDH を入り口に、缶によく書かれる言葉の読み解き方を整理してみます。これが分かると、「今日はこういう気分」というイメージに近い一本を、自分で手繰り寄せられるようになります。
クラフトビールのラベルは「3つの言葉」で読む
細かい用語に入る前に、全体の地図から。
ラベルの情報は、ざっくり次の3つに分けて拾うと整理しやすいです。
| 拾う情報 | 何が分かる | 例 |
|---|---|---|
| ① ABV(度数) | どれくらい強いか | 5% / 8.5% |
| ② スタイル | 味の向き(キレか、とろみか) | West Coast IPA / Hazy IPA |
| ③ オプションの言葉 | 香り・とろみ・甘みの足し算 | DDH / Oats / Lactose |
この3つを組み合わせると、味のイメージが立ち上がってきます。
① ABV + ② スタイル + ③ オプション = 味のイメージ
①と②は連載#01・#02で扱った話。今回は、最後の ③オプションの言葉 を読めるようにしていきます。
→ 最初はこの③が全然理解できておらず、結局デザインだけで選んでいました^^;

まず押さえたい「DDH」— 度数の話ではない
缶でいちばんよく見かけて、いちばん勘違いしやすいのが DDH です。
「Double って書いてあるから、Double IPA みたいに度数が高いやつでしょ?」——以前の私はそう思っていました。でも、これは大きな勘違いでした。
DDH は Double Dry Hopped(ダブル・ドライ・ホップ) の略。「ドライホップ(香りづけのために、加熱せず=煮込まずにホップを漬け込む工程)を、2回、あるいは倍量おこなった」という意味です。ちなみにホップは、ビールに香りや苦味をつける植物のこと。つまり DDH は、度数の話ではなく、香りの話です。
連載#02 で、Hazy が「煮込まずに漬け込む」ことで香りを引き出している、という話をしました(くわしくは NEIPAとHazy IPA、見た目も味わいも似てるけど何が違う? の記事も)。DDH は、その漬け込みを いつもの倍の量やったよ、という合図です。
ここが大事なポイントなので、並べて整理します。
| 表記 | 何の話 | 増えるもの |
|---|---|---|
| Double / Imperial IPA | 強さ(アルコール) | 度数・ボディ(飲みごたえ) |
| DDH | 香り(ドライホップ) | アロマの密度 |

だから、「DDH Session IPA(度数4.5%)」 のような一本も存在します。度数は軽いのに、香りだけは爆発的。「酔いたくはないけど、ホップの香りは思いっきり浴びたい」という日にぴったりの組み合わせです。
→ 「軽いのに香りはすごい」が成立すると知って、IPA選びが一気に自由に!
なお、Double や Triple と同じで、DDH にも「何回以上漬けたらDDH」という厳密なルールはありません。「倍」の基準はそのブルワリーの普段の造り方(いわば当社比)なので、A社のDDHとB社のDDHで量が同じとは限らない——というくらいの緩さです。あくまで造り手からの「香りに気合い入れてます」というメッセージとして受け取るのがちょうどいいです。
缶のラベル用語ミニ辞典(DDH・Oats・Cryo)
DDH が分かったところで、ほかによく見かける言葉も拾っていきます。②のスタイルを見分ける言葉と、③の「味のどこが盛られているか」を示す言葉、まとめて拾っておきます。
→ 全部を覚えなくて大丈夫。缶で見かけたときに思い出せれば十分。
スタイルを見分ける言葉
まずは②のスタイル。缶に「Hazy IPA」とはっきり書いてあれば早いのですが、遠回しな言葉でしか示されていないこともあります。ここは 「見た目」と「後味」を分けて読む のがコツです。
- Hazy / Juicy / Unfiltered(無濾過) … 見た目は濁り系。とろみと甘み、ジューシーな香りの方向
- Clear / Filtered … 見た目は透き通ったタイプ
- Dry / Crisp / West Coast … 後味の話。甘さを残さず、スパッと切れる方向
ポイントは、West Coast が指しているのは「後味のドライさ」 だということ。基本はクリアな見た目とセットです。
→ 「Unfiltered」の一言でHazyだと分かるようになってから、棚での判断がかなり速くなった。
香りを盛る言葉
- DDH / TDH … Double / Triple Dry Hopped。漬け込みの回数(量)。香りが強いサイン
- Citra / Mosaic / Galaxy など … ホップの品種名。香りの方向のヒント。Citraは柑橘・グレープフルーツ系、Mosaicはトロピカル・ベリー系、Galaxyはパッションフルーツなどトロピカル系、というように、品種ごとに得意な香りがある
口当たり・甘みを盛る言葉
- Oats / Wheat(オーツ・小麦) … タンパク質の多い穀物。とろみ・なめらかさのサイン。Hazyによく入っている
- Lactose(乳糖) … 発酵で分解されずに残る糖。甘みが足されているサイン。「Milkshake IPA」などはこれ
香りをクリアに尖らせる言葉
- Cryo Hops(クライオホップ) … クライオホップとは、ホップの香り成分を濃縮した素材のこと。雑味(青臭さ)が少なく、クリアで強い香りが出る
苦味の目安
- IBU … 苦味を数値化した指標(International Bitterness Units)。数字が大きいほど理屈上は苦い。ただしHazyのように甘みで苦味が隠れる場合は、数字ほど苦く感じないことも多いので、あくまで目安に
💡ここをこうすると?
「言葉を見たら → こう予想」の早見表。
| 缶のこの言葉 | 味のイメージ |
|---|---|
| Hazy / Juicy / Unfiltered | 濁り系。とろみと甘み |
| Clear / Filtered | 見た目が透き通っている |
| Dry / Crisp / West Coast | 後味がスパッと切れる |
| DDH / TDH | 香りが強い |
| Oats / Wheat | とろみがある・なめらか |
| Lactose | 甘い |
| Cryo | 香りがクリアで鋭い |
| Citra / Mosaic | 柑橘・トロピカルな香り |
実践!ラベルからイメージしてみる
言葉が分かったら、あとは組み合わせるだけ。実際にいくつか、一緒に予想してみましょう。
例1:ABV 6.5% / Hazy / DDH / Citra
さて、どんな味でしょう?
度数はIPAとしては標準的で、Hazyのなかでは軽いほう。濁り系なので苦味は控えめでトロッと系。そこに DDH と Citra が乗っているので、柑橘の香りがブワッと開くジューシーな一本 だと予想できます。重すぎないので、香りを楽しみたい平日の夜にも良さそうです。
例2:ABV 8.5% / Hazy / Oats / Lactose
今度はどうでしょう?
度数は高め。Hazy に Oats でとろみ、さらに Lactose で甘み。これは 甘くて濃厚な、デザートみたいな一本。連載#02で触れた「飲みやすいのに後から効くタイプ」なので、ゆっくり一本と向き合う日に向いています。
→ ラベルで予想してから飲むと、答え合わせが楽しくて、ハズれても勉強になる。
おすすめの一本
「ラベルの言葉を意識して選んでみたい」という人向けに、特徴が分かりやすい一本を挙げておきます。
📦 シエラネバダ ヘイジー・リトル・シング(Sierra Nevada Hazy Little Thing)
比較的手に入りやすいHazy IPA。スーパーや通販でも見かけやすく、「濁り系の香り」を気軽に試す入り口として分かりやすい一本。
📦 うちゅうブルーイング(UCHU BREWING)のDDH系
「DDH」の香りの密度を体感したいならこのあたり。手に入れば、漬け込みを倍にしたヘイジーの香りの濃さがよく分かる。
📦 楽天市場で「Hazy IPA」を探す
よくあるQ&A
Q:DDH と Double IPA、どっちが強いの?
A:比べるものが違います。Double IPA は「度数(アルコール)」が高いという意味、DDH は「香り」が強いという意味です。なので「度数は普通だけど香りは最強」も、「度数も香りも最強」もあり得ます。
Q:IBUの数字が高い=苦くて飲みにくい?
A:必ずしもそうではありません。IBUはあくまで計算上の苦味の数値です。特にHazyのように甘みやとろみがあるビールでは、数字が高くても苦く感じないことがよくあります。目安程度に見ておけば十分です。
Q:ホップの品種名(Citraなど)は覚えたほうがいい?
A:全部覚える必要はないです。ただ、自分が「美味しい」と思った一本に書いてあった品種をひとつ覚えておくと、次に選ぶときの手がかりになります。「Citraが好きだったな」くらいで十分役立ちます。
Q:Lactose(乳糖)が入っていると、お腹が気になる人は注意?
A:乳糖が使われているビールには微量の乳由来成分が含まれます。乳糖不耐や乳アレルギーが気になる方は、念のため原材料表示を確認すると安心です。
まとめ:ラベルが読めると、選ぶのが楽しくなる
3回にわたって、IPAの 強さ(#01)、スタイル(#02)、そして ラベル(#03) を見てきました。
- ① ABV で、どれくらい強いか
- ② スタイルで、ドライさ・キレか、甘み・とろみか
- ③ 言葉で、香り・とろみ・甘みの足し算
この3つを拾えるようになると、棚の前で「なんとなく」選んでいた一本に、自分でアタリをつけられるようになります。デザインで選ぶ楽しさはそのままに、「今日はこういう気分」というイメージに、ぐっと近づけられる。
次に酒屋や通販の棚を眺めるときは、ぜひラベルの小さな英語にも目を向けてみてください。きっと、これまでよりちょっとだけ、選ぶ時間そのものが楽しくなるはずです。
3回お付き合いいただき、ありがとうございました。それでは、良いクラフトビールライフを。Cheers!
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連載「IPAの選び方」
- 【#01】IPA、Double、Triple…?「今の気分」にピタリとハマる選び方 … 度数で見る「強さ」の違い
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