クラフトビールの棚やタップリストを眺めていて、「Double IPA」と書かれた缶を2本買ってきたら、片方はスパッと切れるドライな飲み口で、もう片方はトロッと甘いジュースみたい——そんな体験、ありませんか?
【IPAの選び方#01】Double、Triple…?「今の気分」にピタリとハマる選び方では、Double や Triple という呼び名が「アルコール度数が高い=麦芽もホップも増えて濃くなる」ことを意味する、という話を整理しました。
ただ、その感覚がそのまま当てはまらない世界があります。それが、ここ数年すっかり主流になった Hazy IPA(濁ったIPA)の存在です。
今回は、同じ「Double IPA(アルコール8〜9%台)」でも、クリアな American IPA と Hazy ではなぜここまで味が違うのか、その仕組みと、気分に合わせた選び方を整理してみます。棚でよく見る「West Coast IPA」という種類がどこに入るのかも、途中で整理します。
まずは結論:強くなる「向き」が違う
細かい話に入る前に、クリア系と Hazy の Double IPA を並べたときの印象を表で見てみます。一杯目に注がれた瞬間からゴールまで、感じ方がここまで違います。
| 視点 | American IPA(クリア系) | Hazy IPA(濁り) |
|---|---|---|
| 見た目 | 透き通った黄金色〜淡い琥珀 | 向こうが見えない黄色〜オレンジ |
| 第一印象 | スッと軽く麦の香りとホップの香りが先に立つ | トロッとした舌触りに口の中が満たされる |
| 後味 | スパッと切れて、何も残らない | とろみと甘みの余韻がしばらく続く |
| 苦み | あるが後に引かない。近年は控えめな造りも多い | 苦味があまりなく、甘みととろみに包まれて丸い |
| 甘味 | 残さない。ドライに仕上げる | Doubleの時点ですでに濃厚 |
| 香り | 松ヤニ・柑橘・ドライ系 | トロピカルフルーツ・ジュース感 |
| 例えるなら | 搾りたてグレープフルーツのキレ | フルーツネクターのような満足感 |
同じ「Double IPA」と書かれているのが不思議になるくらい、別物です。
→ 最初に Hazy の Double を頼んだとき、「自分が知ってる IPA じゃない…」と本気で戸惑った。
ざっくり言うと、度数(強さ)が上がるときに伸びる方向が、American IPA は「ドライさとキレ」、Hazy は「甘みととろみ」と、まるで違う方向に進んでいきます。
ちなみに、ここでいう「ドライ」は、どちらかというと甘さ・残糖感が少なく、口の中に糖っぽい重さを残さないという味わいの設計を指しています。一方で、日常よく聞く「ドライ」「キレ」は、炭酸などで飲み込んだあとに味がスパッと収束して、口中から素早く消えていく爽快感まで含んだ表現になっています。
ということでここから、それぞれの仕組みを少しだけ覗いてみます。

American IPAの場合:麦の甘みとドライな後味
まずは、透き通ったクリア系のIPAの話から。
クリア系IPAの、いちばん大きなくくりが American IPA です。ビアスタイルの世界標準であるBJCPのガイドラインでも、「ドライでシャープ、クリアなものが West Coast IPA と呼ばれることがあるが、それは American IPA の一形態」と整理されています。
棚やタップリストでよく見る「West Coast IPA」は、その American IPA の中にある呼び名です。別物ではなく、ほぼ同じものを指していて、American IPA のほうが少しだけ広い——という関係だと思っておけば大丈夫です。この記事では大きいほうの名称として American IPA を使い、必要なところで West Coast と呼び分けます。
連載#01で見たように、Double や Triple では麦芽(モルト)の量が増えて、ビールに「甘み」や「ボディ」が乗ってきます。ですが American IPA は、最後には甘さが後に残らず、スッと切れる飲み口となるように設計されています。
→ 2杯目になっても飽きないのは、American IPA ならでは。
「West Coast=ガツンと苦い」は、”オールドスクール” のほうの話
「West Coast IPA といえば、とにかく苦いやつでしょ?」というイメージを持っている人も多いはず。それ自体は間違いではなくて、いまの West Coast には、大きく2つの顔がある というのが実際のところです。
- オールドスクール(Old School) … 2000年代からの、苦味とホップをガツンと効かせたタイプ
- モダン(Modern) … 2020年以降からの流行りで、苦味よりホップの香りが前面にでているタイプ
モダンが増えた背景にあるのは、Hazy全盛のあとに来た「クリア系の再評価」の流れ。濁り系の甘さととろみに一周した飲み手が、もう一度スッキリした一杯を求めはじめた——そんな空気の中で、昔のレシピをそのまま復刻するのではなく、香りのよく立つ新しいホップを使って、より軽く、より飲みやすく組み直した一本が増えたのかもしれませんね。
つまり「West Coast=とにかく苦い」は、オールドスクールを指したイメージ。いま棚に並んでいる新しめの一本は、「苦い」より「香り」がキャラクターの中心にあります。苦味も入ってはいますが、後に引かずスッと消えていくものが多くなってきています。
ただしこの2つ、きれいに線が引けるわけではありません。苦くてもホップの香りが強ければ「モダン」と呼ばれたり、「ハイブリッド」と言われたり——そのくらいの緩さで使われている言葉だと思っておくくらいがちょうどいいです。
Triple クラスはまた別の顔
ちなみに、ここからさらに上の Triple IPA(10%超)まで行くと、麦芽の量がさすがに勝ってきて、べっこう飴のような甘みやとろみが顔を出します。連載#01で触れた話ですね。
ただ「Double のあいだ」は、まだドライさとキレが主役、という感覚で大きく外すことはないと思います。
Hazy IPAの場合:甘みととろみが全開
一方、ここ数年すっかり定着した Hazy IPA(ヘイジー)は、そもそも「苦味を前に出さない」設計で作られています。
(Hazy も、広く見れば American IPA の一種と捉えることはできます。ただ見た目も味わいも離れているので、この記事では「クリア系=American IPA」「濁り系=Hazy」と分けて話を進めます)
ここで気になるのが、「ホップをたくさん入れているはずなのに、なんで苦くないの?」という素朴な疑問。気になって調べてみると、ホップを入れる 「タイミング」と「温度」 に答えがありました。
ホップは、麦汁と一緒にグツグツ煮込むと、α酸という成分が変化して「苦味」になります。American IPA はこの煮沸中にもホップを入れて、苦味を味の骨格として使う作り方。
Hazy は逆で、煮沸中の苦味づけホップを最小限にして、火を止めたあとや、発酵中のタンク(温度が下がった状態)にホップを大量に漬け込む 手法がメインです。こうすると、苦味成分はほとんど出ずに、ホップが本来持っている 華やかな香り成分(オイル) だけがビールに溶け込んでいきます。
→ 「煮込まずに漬けるだけ」と聞いて、紅茶の水出しみたいだなと思った。
そこに、オーツ麦や小麦などタンパク質の多い穀物がたっぷり加わるので、口当たりは絹のようにまろやか。Doubleクラスになっても、増えるのは「苦味」ではなく「とろみ」と「甘み」と「香りの密度」 ——という、American IPA とはまるで違う進化の仕方をします。
💡ここをこうすると?
ホップを入れる「温度」と「タイミング」が変わると、同じホップでもこれだけキャラが変わる。
- 高温で煮沸 → 苦味が骨格になる(American IPA的)
- 低温で漬け込み(ドライホップ) → 香りだけ抽出される(Hazy的)
缶に書かれた「Dry Hopped」の文字は、その後者の手法を使っているサイン。

初心者がハマる「Hazyの罠」
ここで、Hazy の Double IPA を飲むときに知っておきたい注意点を一つ。
Hazy の Double(ABV 8〜9%台)は、ある意味でかなり危険です。理由は、度数が高いのに、本当に飲みやすい から。何よりハイアルの部類のビールなのにアルコール感がまったくないんです。
American IPA なら、ドライな後味とアルコールの熱さが「これは強いぞ」と身体に伝えてくれます。その手応えがあるおかげで、自然とペースが落ちる。
ところが Hazy の場合、フルーティな香りと、麦芽やオーツ麦の甘みが、アルコールの「熱さ」や「匂い」をすっかり覆い隠してしまう。そう、「隠蔽」と言われているやつですね。マンゴージュースみたいな見た目と味で、ABV 8.5% がスルスル入っていきます。
そして、立ち上がろうとした瞬間に「あれ、効いてる…」と気づく。あの感じです。
対策はシンプルで、Hazy の Double を開けるときは、最初からチェイサー(水)を横に置いておくこと。香りをゆっくり追いかけながら一口一口味を堪能しながら飲むほうが、この手のビールは断然おいしく感じます。
🔍 棚で見分けるコツ
缶に「Hazy」「Juicy」「Unfiltered(無濾過)」と書いてあれば、まず濁り系。「Clear」「Crisp」「West Coast」とあれば、クリアな American IPA 系です。小麦やオーツ麦が入っていれば、濁り系の可能性が高いです。ラベルの読み方は、連載#03でもう少し詳しく整理します。
おすすめのDouble IPA
「飲み比べてみたい」という人向けに、それぞれのスタイルの代表どころを挙げておきます。気分に合う方を選んでみてください。
スカッとリフレッシュしたい夜には:クリア系のDouble IPA
仕事を終えて「ガツンと切り替えたい」という日にハマるのが、ドライなキレが主役のクリア系 Double IPA。脂っこい料理(焼肉、唐揚げ、餃子)との相性も抜群です。
📦 ベアードビール スルガベイ インペリアルIPA
静岡のブルワリーが造るインペリアルIPA。ホップの効いたシャープな飲み口で「Doubleとはこういうものだ」を体感できる一本。取り扱う店が多く、手に入りやすいのも入門向き。
📦 箕面ビール W-IPA
日本のクラフトシーンを代表する Double IPA。日本のブルワリーが作る、ガツンとくる正統派の味わい。
まったり甘やかしたい夜には:Hazy Double
週末の夜、スイーツの代わりに濃厚な一本でゆっくり過ごしたい——そんな日には Hazy Double。チーズやドライフルーツ、ナッツ系のおつまみと合わせると至福です。
📦 うちゅうブルーイング(UCHU BREWING)の Hazy / Double Hazy 系
日本のヘイジー界を牽引するブルワリー。買えたら奇跡レベルのプレミア人気だが、「Hazy のとろみと香りの極致」を味わえる。
📦 伊勢角屋麦酒 ねこにひき(Hazy Double IPA)
ABV 8% 台の本格 Hazy Double。日本のブルワリーが作る、ジューシーで濃厚なヘイジーの代表格。
よくあるQ&A
Q:West Coast IPA と American IPA は違うもの?
A:別物ではありません。BJCPのスタイルガイドラインでは、West Coast IPA は American IPA の一形態、と整理されています。ほぼ同じものを指していて、American IPA のほうが少し広い、という関係。缶に West Coast と書いてあったら「クリアな American IPA なんだな」と思っておけば大丈夫です。
Q:「Old School」「Modern」と書かれた West Coast IPA を見かけました
A:同じ West Coast の中の、方向性の違いです。オールドスクールは苦味をガツンと効かせた昔ながらのThe IPAというタイプ、モダンは苦味より香りとドライさで勝負するタイプ。ただし厳密な線引きがあるわけではなく、苦くても香りが強ければモダンと呼ばれることもあります。
Q:American IPA と Hazy、どっちから飲み始めたらいい?
A:後味の好みで選んで大丈夫です。スッキリ切れる飲み口が好きな人(ハイボールや炭酸水をよく飲むタイプ)は American IPA、フルーツジュースやスムージーが好きな人は Hazy から入ると、最初の一杯が気に入りやすいと思います。
Q:Hazy IPA と「NEIPA」は同じもの?
A:ほぼ重なりますが、イコールではありません。NEIPA(New England IPA)はアメリカ東海岸で生まれた元祖の呼び名で、Hazy IPA はそこから世界中に広がった「濁り系IPA全体」を指す、より広い言葉です。ざっくり言えば、Hazy という大きな輪の中に NEIPA がある という関係。詳しくは NEIPAとHazy IPA、見た目も味わいも似てるけど何が違う?の記事もぜひ。
Q:Hazy の「濁り」って、澱(おり)なの?
A:澱ではなく、意図して作られた濁りです。ホップや麦芽に由来するタンパク質とポリフェノールが結びついてできるもので、飲んでまったく問題ありません。時間が経つと濁りが落ち着いてくることもありますが、そのころには肝心の香りも一緒に落ちていることが多いので、やはり新しいうちに飲むのがおすすめです。
Q:Hazy IPA は時間が経つと味が落ちる?
A:落ちやすいスタイルです。Hazy はホップの「香り」が命で、その香り成分は時間と共にどんどん酸化して飛んでいきます。製造日が新しいものを買って、できるだけ早く飲み切るのが基本です。
Q:Imperial IPA は Double と同じ?
A:実質ほぼ同じと考えて大丈夫です。「強い版」の枕詞として Imperial が使われていて、ABV 7.5〜10% あたりを指すことが多いです。詳しくは連載#01でも触れています。
まとめ
同じ「Double IPA」でも、American IPA(棚では West Coast とも)は ドライさとキレ が前に出て、Hazy は 甘みととろみ が全開になる。強さの伸びる「向き」が、そもそも違う2つのIPA。
これが分かると、「とりあえずDouble」と勘で選んでいた一本が、「今夜はドライにガツンと切り替えたい」「今夜は甘くてジューシーにまったりしたい」と、気分から選べるようになります。
次に酒屋やビアバーに行ったら、ぜひクリア系と Hazy の Double を並べて飲み比べてみてください。「強さの向きが違う」が、舌の上で一発で分かるはずです。
そして次回の #03 では、ここまでの話とよく混同される、もう一つの呪文「DDH(Double Dry Hopped)」について整理します。「Double と書いてあるからアルコール度数が高いんでしょ?」と思ったあなた——実はそれ、別の話なんです。Cheers!
